『人間豹』
創元推理文庫
『人間豹』
春陽堂文庫
『黒蜥蜴 江戸川乱歩全集』 9
光文社文庫(『人間豹』収録)
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この記事には、いわゆるネタばらし、ネタばれがある。
『幽霊塔』を再読したわけだけど、講談社の 1978年版全集の 10巻だったかな? 『幽霊塔』収録の巻には『人間豹』が並んで収録されているので、こちらも読んだ。これを機会に乱歩を、どんどん読み直そうかなと思ってる。『幽霊塔』再読の記事で書いたように、『人間豹』は乱歩を読み始めた最初の頃に、春陽堂文庫で読んだ一冊。13歳、中一の冬。望月三起也の『ワイルド7』を、ちょうどこの頃、テレビドラマでやってて、アクション物を午後 7時からの子供番組の枠でやるってどうよ、どうせちゃちいものだろうと思って一度も観なかったが、これをきっかけに近所の散髪屋に行くと置いてある“少年キング”、それまでは赤塚不二夫しか見なかったが、「ワイルド7」も見るようになった。「首にロープ」。で、だんだんはまっていったのだが、単行本で最初から読み始めたのは高二、16の初夏から。2話目が「バイク騎士事件」なのだが、『人間豹』読んでて良かったと思ったね。ネタが分かったから。乱歩の世界と望月アクションの世界というのも、ちょっと感触が違うけど、ああ、ああいう作品もちゃんと読んでるんだなあと思った。
その『人間豹』。乱歩は、日本で最初に本格的なミステリ作品を書いた一人で、特に初期の短編は名作なのだが、その後、大衆向け雑誌に請われて通俗的な長編を次々発表、人気を博し、太平洋戦争前夜の「エロ・グロ・ナンセンス」の時代を代表する一人となった。通俗的な長編からさらに、少年向けの怪人二十面相シリーズに移るわけだが、『人間豹』は少年物を書き始める直前の頃だったと思う。通俗的な長編で人気を博するのはいいが、本人はそんな自分に自己嫌悪を覚えて、休筆を繰り返す。『人間豹』は、二度目の休筆前の作品。その前の「蜘蛛男」とか「吸血鬼」というのは普通の人間の犯罪者だが、「人間豹」は人間と豹の、あいの子ではないかと思わせる描き方をしている。真相は不明で、そのラストが印象深い。また、クライマックスのサーカスの場面ね。最初に読んだとき印象深かった場面は他には中途、明智が人間豹に変装して敵を捕らえようとするのだが、芝浦だったかどこだったか、水道の土管がズラッと並んでるところにルンペンたちが住んでて、そこに紛れ込んでしまって、敵の策略で、人間豹が紛れ込んだと騒がれてしまう。急に変装を解くことも出来ず、ルンペンたちに追われて、あわや、明智探偵の運命やいかにというくだり。
物語の中盤は、敵は単なる獣人かと思ったら、知恵もあって、そういう敵と人間豹たち親子の敵の裏をかくトリック合戦の様相を呈するのがやはり再読しても面白い。前の長編『吸血鬼』の後で明智と結婚した文代さんが敵に狙われ(ちょうど敵のお好みの顔だったという(笑))、窮地になる。小林少年が初めて登場する。
今回再読して、面白いなというか、こういう場面があったかと思ったのは最初のカフェの場面の後、前半の主人公の神谷青年が不気味な人間豹を車で追って郊外の森の中に入っていくんだけど、茂みの中が、さわさわと揺れて、豹の目がこちらを見てるというシーンね。これはスリリング。
明智たちが浅草に敵を追って行くんだけど、結局逃げられて、浅草公園のどこかに人間豹がいるぞというので東京中大騒ぎになって、ある奥さんが公衆便所の戸を開けたら中に人間豹がいて、こっち向いたとかいう噂が流れたり、なんつうか小説中で乱歩の脳内妄想が東京中を覆ってしまった状態になるのが、なんとも快感であるなあと、あらためて感じた。
そこから結末へ向けては、ちょっと急展開というか、なぜか明智と文代さんが、まあ敵を探すという目的はあったんだが、労務者に化けて浅草をうろうろして、結局文代さんはさらわれてしまう。で、明智も捕まって、
そしたら、途中から全然登場しなくなった青年も捕まっていてという……。
神谷青年の最初の恋人であるカフェの女給は捕まって、探しに行った神谷青年も捕まる。神谷青年が壁のすきまからのぞいている前で、人間豹に殺されてしまうのだが、この殺されてしまう場面の描写というのも、今読むと不思議だね。もちろん、そんな殺害の描写を当時の小説でリアルに描くわけにもいかないわけだが、30分も、ほとんど何やってるのか分からないというね。2人目の恋人のレビューの女王は、これは敵の裏をかいて、女中になりすましてお屋敷へ奉公に出ることで行方をくらまそうとしたが……この、実は……って、くだりは恐い。スリル。で、結局殺される。そして文代さんのピンチとなる。一応、人間豹は文代さんを手ごめにしようみたいな行動を取るのだが、もちろんそんな場面を描くわけにはいかないので、文代さんは強い女なので必死に抵抗したら、人間豹はそんなに嫌うのなら殺してやると言って、熊のぬいぐるみの中に入れてしまう。ここも、何やってるのかよく分からないシーン。作中で描かれる人間豹に、とても抵抗は出来そうもないのだが、要するに、人間豹って普通に人間の女とセックスするってことは出来ないんじゃないか。どうしても噛み殺してしまう、でなくても人間に対しては殺すということしか出来ないという。書いてる乱歩としては、あまり女をどうこうするというのに興味ないんじゃないか。なんかエッチなことやりそうなんだが、でもたいしたことないという、今なら少年漫画の世界だね。しかし、そういう面白おかしく読めればいい世界の中で描かれた、荒唐無稽な獣人みたいな犯罪者……というのが、案外、変質的な犯罪者像というのをリアルに描いているのかも知れない。
1978年版全集の『人間豹』のイラストは横尾忠則。私は横尾忠則の乱歩イラストの印象が強かったので、乱歩全集は全部、横尾忠則が描いてるのかと思ったら、そうではなく、古沢岩美、永田力の三人だった。