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感想集:活字本 2016.2

自分のページで感想文を発表してきていましたが、自分のページもやめたので感想文も今までよりコンパクトにしたいと思います。一つの記事に何冊かの本の感想をまとめます。

2016.2

『吉永小百合 街ものがたり』吉永小百合(講談社、講談社+α文庫 2003.12.20 原著書 1999.4 刊行)

2004年の秋に読んで感想を書こうと思って、今までずっと積んでおいた本、ラジオ番組をもとにした本らしい。文庫版の方は巻頭 8ページにわたってカラー写真有り。今まで世界各地へ旅したときの思い出を綴った内容である。アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカ、オセアニアと旅行は全世界に及ぶ。と全体において吉永小百合調の思慮の感じられる、おだやかさのある本。

印象に残っているのは、海外旅行ではないけど「はじめに」で書かれている体験、15歳のときロケ地に向かうために一人で夜汽車に乗ったら、お金をすられて宿舎でジュースも飲めなかったとか、大女優にもそういうときがあったのだなあ。それから中国旅行で井上靖や大江健三郎と一緒に行ったという話を読んで、派手な芸能界だが、芸能の仕事でがんばっていい仕事を続けたら、こういう他の分野での一流の人たちと交流する機会があるから、どんどん知見も広がり深まってゆく、自ら人間的に向上しようと思ったらそのチャンスがある世界だし、逆に堕落しようと思ったらいくらでも堕落出来る世界であるなあと改めて感じた。今確認したら、その旅は中国というより井上靖の小説の舞台にもなった西域への旅で、日中文化交流協会の旅、1984年というから映画『玄海つれづれ節』の頃だから、結構後のこと(人気スター時代の後、押しも押されもしない女優時代になってから)なんだね。中国へはそれより前に 1977年に中国人民対外友好協会の招きで木下恵介、仲代達矢らと映画人の代表として訪れている。

はじめての海外旅行は17歳になってすぐ、映画人代表の団体でミラノの国際映画見本市へ行ったときだそうで、その頃はまだやっと日本人が自由に海外渡航できるようになった頃だ。これからもそばに置いて、折にふれて手に取って、世界のいろいろな話を楽しみたい本だ。


『ムッシュ!』かまやつひろし(文藝春秋、文春文庫 2009.11.10 原著書 2002 刊行)

舞台に出る前に内田裕也がムッシュ、あなたロックですか、フォークですか、どっちかはっきりしてくださいと問いただしたので、舞台に出て「フォークのかまやつです」と言ったら、裕也がソデで笑い崩れていたというエピソードが書かれている。私が、かまやつひろしを知ったのはこの頃、フォークとの接近時代だ。スパイダースというGSのグループは知っていたけど、マチャアキがいたグループという認識しかなかった。解散後、井上順と、かまやつひろしが所属しているレコード会社の 15分くらいの歌番組がちょうど日曜の午後にオンエアされていて、井上順が軽快な「昨日・今日・明日」を歌い、かまやつひろしが「独り者」というカントリー調でフォーク調の曲を歌った。1971年初夏の頃だ。それからしばらくしてラジオ番組の公開ライヴで軽妙なしゃべりで歌うのをときどき聞いているうちに「我が良き友よ」という曲が出て、ドラマは見てなかったが、鈴木ヒロミツが登場するラジオのスポットCMで、いい曲だなあと思ったら大ヒットした。1975年の春だ。「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」はムッシュがやっていた TBSの土曜の深夜の公開番組で聞いた。LPも買った。

ムッシュがロカビリー時代からの人だというのも、いつか知っていたが、赤木圭一郎が事故死したとき現場に一緒にいたというのは、この本で初めて知った。そういう時代から最近まで、日本のポップス・ロック史の一面を現場から語り、現場にいる一人として論評する、生きた日本のポップス・ロック史的な内容を持つ本である。

『アラビアンナイトの殺人』ディクスン・カー、宇野利泰訳(東京創元社、創元推理文庫 1961.6.16 原著 1936刊行)

1973年の秋の始め頃、13歳中二の私はこの分厚い文庫を買ってきて読み始めた。カーについてはその前に現代教養文庫から出ていた江戸川乱歩の随筆集『「探偵小説」の謎』の中での紹介の文章を読んでいて、密室とオカルト趣味の作風ということを知っていたが、冒頭の紹介文にクリスティー夫人も脱帽と書かれていた『皇帝のかぎ煙草入れ』を読んだら、全然普通のメロドラマだった。今度はどうかと思って読み始めたが……ほどなく中断、最初の方、なんだかまだるっこしくて面白くないのだ。それでずっと中断していて本も売っていたものを、30年ほど経った 2000年頃、新たに買ってきて一読したが、どうにも話が飲み込めず、もう一度読んだ。何人かの若者グループの誰が誰か分からなくなるような感じがあって読みにくい。普通こういう密室殺人に近いような内容ならば現場の見取り図みたいなのが載ってたりするが、そういうものもない。警部、副警視総監、警視の 3人が一夜に起きた東洋博物館での殺人事件の経緯と調査結果を語る。犯人まで推理されるが、それは間違っていて、犯人は逮捕されずに終わる。フェル博士が一晩 3人の話を聞いて真犯人を指摘するという構成だ。カーのオカルト趣味を期待したが、この本にはない。もう一つの作風のドタバタ喜劇は、副警視総監の語る大真面目な老いた宗教家の話の中に多少は意図されているようだった。3人の(アイルランド人、イングランド人、スコットランド人とそれぞれに異なる)語りによって事件を立体的、多面的に見せることが意図されていたと思うが、成功はしていない。解説の中島河太郎が、ヘイクラフトが本作を一時、カーの代表作の一つとしていたことに触れて、いろんな見方があるものだと思う他ないと書いているので、やはり目立った作品とは言えないのだろう。


『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』磯山雅(講談社、講談社学芸文庫 2010.4.12 原著書 1985.4 東京書籍)

バッハのオルガン曲は、最初は「小フーガ」の入った 1枚物の LPを買ったのだが、そのうちヘルムート・ヴァルヒャのオルガン全集を買って聴くようになった。そしてかなりの間、そのオルガン全集ばかり聴いていたのだが、バッハの生涯については LP、CDの解説に簡単に触れられているものを読むだけでろくに知らなかった。一冊ちゃんとしたバッハの伝記的な本を読みたくて探したところ、この本を見つけた。この本はバッハの生涯を語る伝記として必要十分な内容であり、なおかつバッハの代表的な曲の数々を解説している。オルガン全集の後に、バッハのどの曲を聞けばいいか、良いガイドブックとなる本だった。


『半七捕物帳(二)』岡本綺堂(光文社、光文社文庫 2001.11.20)

1巻に引き続き、どんどんと読めてしまう面白さで、本格物としては不十分だが、ハードボイルドの味まで含んだミステリの様々な楽しみをたたえた作品集である。「津の国屋」の前半の怪談噺的展開とか「槍突き」の江戸時代の通り魔犯罪とか興味津々の事件がある。面白いのは、あくまでリアルに半七老人から捕り物のエピソードの話を聞くという形式なので、半七以外の岡っ引きの手柄話、時代をかなりさかのぼった話なども語られるところだ。

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