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(再掲)感想文:『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』原田実

web「「すわてのメモ」ページ」閉鎖予定につき、今まで書いていた感想文をこのブログに書いてゆくことにしたので、その手始めに今年になって書いた感想文を再掲載します。

2015/05/05『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』原田実(星海社、星海社新書 2014.8.25)

2年前に同じ著者の同じ星海社新書の『オカルト「超」入門』を非常に面白く読んだのであるが、この『江戸しぐさの正体』も内容の一部はオカルトとしての「江戸しぐさ」を語る本であった。そもそも「江戸しぐさ」とは何か。著者が最初に「江戸しぐさ」という単語を知ったのは、冒頭に書かれているのだが、地下鉄の駅の公共広告機構のマナー啓発ポスターであったという。〈調べたところ CMのために創作されたコピーではないこと〉が分ったとあるので、最初はCMのためのコピーだろう、くらいに思ったのだろう。多くの人がそう思うはずだ。だって、私にしろ人生50年以上生きてきて、「江戸しぐさ」なんて最近まで聞いたことなかった。この本を手に取るまで、せいぜい二、三度どっかで見たか聞いたかしたかなあ程度だ。2000年前後だったか、「和のなんとか」というようなのが、ちょっと流行った。雑誌とか本とかで和の小物を紹介するようなの。そう、今ネット検索してみたが、「しばわんこの和のこころ」とか。私は、この本を昨年秋に書店の店頭で立ち読みするまで、「江戸しぐさ」も似たようなものだろう、そういうのって広告代理店とかそういうのが考えついて流行らせてるんだろう、くらいに思っていたのだが、この本をざっと読んで、それが違うのが分った。

「江戸しぐさ」は単に、マナーとか道徳を押し付けがましく説いていて説教臭いだけというものではなく、あきらかに、いわゆる「トンデモ」説であった。失笑するくらいでは済まない奇っ怪さがある。ある程度の知性をともなって主張されているだけに、愚かな迷信よりさらにおぞましい偽歴史創作のありさまが本書で指摘されている。「江戸しぐさ」というものがあると主張して、それに基づいて現代人のマナーを叱ることを始めたのは、1980年代当時すでに 60歳代であった芝三光(あきら)であり、同年代で市場調査会社の社長などを経た後、アメリカ公民権運動を取材したルポで賞を得ている越川礼子が彼に弟子入りして発展させ、日本経済新聞社の桐山勝が広める手助けをした。「江戸しぐさ」を正当化するために「江戸っ子狩り」などという妄想ストーリーを考え出したのは越川礼子だという。

「江戸しぐさ」に関わるトンデモの最たるものが、その「江戸っ子狩り」であろうが、その他こまごまとした、各しぐさにまつわるおかしさ(変な話であること)、史実と乖離している様は本書の第二章「検証江戸しぐさ パラレルワールドの中の「江戸」」で子細に述べられている。江戸にスープがあったとか、チョコレートが入ったパンがあったとかいう話は一体何であろうか。「江戸しぐさ」は企業のマナー研修とかに使われ、一方では教育材料として用いられ、ついには安倍政権下で道徳教育に取り入れている。そこまで行くまでに止められなかったのだろうか。この本では第五章「オカルトとしての「江戸しぐさ」」で、専門家の責任などに触れつつ、江戸しぐさがいかに浸透したかを語っている。私が思うに、ある程度の教育を受け、あるいは物が考えられれば、著者が第二章であげているような話を読めば、ちょっと待て、ということになるだろう。第二章で取り上げている江戸しぐさの各実例は『商人道「江戸しぐさ」の知恵袋』という越川礼子が 2001年に講談社から出した本から主に採り上げられている。企業の偉いさんたちとか教育関係者の偉いさんたちは、江戸しぐさというマナー教育の教材があります、ああそう、いいじゃないかとろくにそういう江戸しぐさ入門書などに目も通してないのかも知れない。一方で、あの「水からの伝言」同様、おかしい話と思いつつも、教育やマナー啓発の材料となれば構わないという誤った実利主義の考え方をしている向きもいるのだろう。

その「水からの伝言」といえば、この本によると TOSSという教員の教育指導研究の団体が「水からの伝言」やら、この「江戸しぐさ」やらその他怪しげな「お話」を教育材料として採用することを推進しているのだという。今さらと言われるかも知れないが、「水からの伝言」が話題になったときは、私はそこまで関心が無かったのだ。だが、今回この本を通して、あらためて、ゆゆしき問題であることを感じ入った次第である。

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