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乱歩再読メモ 短編群、大正15年

大正15年にも、まだ引き続きいくつもの短編が書かれている。初期の短編時代の後半である。「踊る一寸法師」「毒草」「覆面の舞踏者」「灰神楽」「火星の運河」「モノグラム」「お勢登場」「人でなしの恋」「鏡地獄」「木馬は廻る」がそれであり、初めての長編連載「湖畔亭事件」「闇に蠢く」と平行しての創作活動である。

私が初めて読んだ乱歩の本は、この時期の名作「鏡地獄」も収録されている新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』なのだが、今回再読していて思い出したが、正確にはその前に「灰神楽」を読んでいたのである、といってもおそらく乱歩の文章そのままではなく、リライトされたものだったと思う。今確認することは出来ない。私は学研の科学と学習をずっと買ってもらっていたのだが、学習の方は秋に一冊、読書の秋ということで読み物増刊号というのが出ていた。その小学5年か6年のときの号に「灰神楽」が収録されていたのだ。「灰神楽」という単語そのものが当時の私にはよく分らないようなものなのだが、先に漫画の『巨人の星』で、花形が阪神の村山監督に大リーグボール2号の秘密を解き明かすのに、火鉢に灰神楽が立つのを利用する場面があって、それを先に見ていた。見ていても、灰神楽という現象が良く分からなかった。犯人の側から犯行が見つかるまでを描く倒叙物の短編「灰神楽」は、ひねりが一つあるだけの地味な短編であるが、再読すると、他の諸作と並んで犯罪を犯した後の犯人の焦慮するニューロイックな心理の描写が素晴らしい。ポーの短編にすでに描かれている心理であるが、乱歩はそれを描くについて、自らの生理的なものとして体得しているという感がある。

「鏡地獄」以外は、その後に春陽文庫でランダムに読んだ。どれも代表作として一番に持ってくるというものではないが、捨てがたい作品が多い。一つ一つが、こんな作品もあるのか、こんな話もあるのかという発見の出会いだった。春陽文庫には解説もないので、まったく余計な情報のない、作品そのものとの出会いがあったことを感謝したい。その中には「踊る一寸法師」「火星の運河」といった強烈な乱歩的美の世界もあれば、「毒草」「木馬は廻る」といった、こんな作品もあるのかという文学的感興をもたらす短編もあった。作家になる前に、いろいろな職業を転々としたという乱歩、「夢遊病者の死」などにも伺えるが、この二作でも当時の、貧しくうらぶれた環境にある人々の描写が抜群にうまい。「毒草」は秋の郊外ののどかな描写とスリルとの対比が良く、「木馬は廻る」は物悲しさのままに突然の祭りが高揚してゆく状況にカタルシスを感じる。「毒草」は中島河太郎が全集の解題で、きちんと評価しているし、「木馬は廻る」は最近出た岩波文庫版の乱歩短編選に収録されている。


「人でなしの恋」は本格的な怪談調の展開で読んでて怖かった。木田順一郎が M.R.ジェームズの「ポインター氏の日録」という西洋怪奇短編と構成を比較した文章がある。乱歩の作品で女性一人称というのは、ありそうなようでないのであった。今回まとめて読んでみると、時期を同じくする「鏡地獄」と似たような構成と言えるのではないか。一つ気になったのは、語り手の女性が、夫が土蔵から出て、その後、誰も出てこないのを確認して、それから夫より早く寝所に戻れるのだろうかということ。まあ、狭い家ではなく、夫もせかせかと帰りを急がなければ大丈夫なのだろう。人形の恐怖は乱歩が随筆にも書いており、掲載誌が一般雑誌“サンデー毎日”である、この作品はワンアイデアで気軽に書いて、思いの他にうまくいった作品かも知れない。

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