« 乱歩再読メモ『一寸法師』 | Main | 乱歩再読メモ 短編群、大正15年 »

乱歩再読メモ『湖畔亭事件』、『闇に蠢く』

『湖畔亭事件』、『闇に蠢く』は、どちらも大正15年の 1月から雑誌連載がスタートした乱歩の処女長編だ。地味な探偵物である『湖畔亭事件』に対し、どぎつい恐怖とグロ全開の『闇に蠢く』という対照的な二作品は、『蜘蛛男』以降で娯楽長編のスタイルを完成させる以前の乱歩の長編模索、試行錯誤時期の作品ゆえのユニークさがある。

地味な探偵物である『湖畔亭事件』(1972年NHKドラマ『明智探偵事務所』では最初の方の回で取り上げられていた)は、内容的には長めの短編で済ませられるような内容だと思うが、事件に巻き込まれた語り手の淡々としているが誠実な語りが、倦まずに読み続けさせる。冒頭、長めの自己紹介で語り手のレンズ、鏡嗜好、それにつながる窃視症の性癖が告白されて興味を引く。レンズ、鏡愛好については同時期の随筆で語られている乱歩の趣味そのままである。少し後の短編名作「鏡地獄」などでも取り上げられるレンズ、鏡愛好であるが、この作品ではその嗜好そのものがテーマになるのでなく、鏡を利用した自作窃視ツールで犯行を目撃する、しかし警察には告げることが出来ないというシチュエーションがストーリーに変化を与えている。淡々としているが誠実な語りで、夜間、語り手が河野と一緒に窃視の道具を片づけていて、屋根の上から庭の怪しい人影を発見する場面、森の中の怪しい光を発見して様子をうかがう場面など怪人は出てこない等身大のスリルが上手く描かれている。語り手が殺されたと思われる芸者の同僚を座敷に呼んで話を聞いた結果、誰もが怪しく思われてしまって途方にくれる描写など面白い。要は乱歩は基本的に物語を語るのがうまいのだ。

『闇に蠢く』は、冒頭の「はしがき」で語り手が、旅の船の中で偶然置き忘れられた原稿を見つけて……という導入部が、いかにもこれからおどろおどろしい物語が始まるという期待を感じさせて上手いが、その後は前半ただ高原のホテルの蒸し風呂で恋人が全裸で体をマッサージされているのを覗き見るというくだりのみが面白いという、あまり動きのないストーリーだ。場面が東京に移って少し変化がもたらされ、どうなると思っていたら、後はもういっきょに、文字通り「闇に蠢く」こってりと恐ろしい話になる。ラストの部分は連載時には未完で、2年後の大衆文学全集収録の際、原稿30枚あまりが書き足されたという。ポー唯一の長編、大西洋に航海に出た「ゴオドン・ピムの物語」12章で、難破していよいよ食べ物がなくなり、主人公の少年がくじを作らされるくだりがあるが、当然参照すべき題材として乱歩の脳裏にあったのだろうなあ。同じように難破した経験を持つ男と主人公たち二人が闇の中で再び飢えに苦しむ状況が訪れ……きっかけは飢餓にしろ、この作品においては前半の女体美(女性の体というより、部分部分が強調された何かに変容している)賞味につながるようなセンシュアルな嗜好として描かれているように、うかがえて、そこらへんが興味深い。乱歩の様々な作品の中でもこの題材が取り上げられているのは、この作品だけなのだ(よね?) ラストシーンは、凄惨すぎて笑ってしまうような光景だが、きちんとけりをつけたラストと言えるだろう。

|

« 乱歩再読メモ『一寸法師』 | Main | 乱歩再読メモ 短編群、大正15年 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/17204/59596195

Listed below are links to weblogs that reference 乱歩再読メモ『湖畔亭事件』、『闇に蠢く』:

« 乱歩再読メモ『一寸法師』 | Main | 乱歩再読メモ 短編群、大正15年 »