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乱歩再読メモ『一寸法師』

乱歩が『蜘蛛男』以降の通俗長編で大衆読者に人気を得る以前に、“朝日新聞” (当時の“東京朝日新聞”及び、“大阪朝日新聞” ) という大メジャーな活字媒体に初めて連載した長編で、この作品の前の長編には『湖畔亭事件』及び『闇に蠢く』がある。私は 1973年の春先、13歳のとき、春陽堂の文庫で乱歩長編を読み始めて数冊目、『地獄の道化師』と一冊にまとまっているのを読んだ。『地獄の道化師』は戦前の長編としては最後の方なので、『一寸法師』と一冊にまとまっていることに、それほど意味はないと思う。地味な『一寸法師』を読んだ後で、探偵小説のトリックとして新たな試みのある『地獄の道化師』が予想外に面白かった。ちなみに短編「踊る一寸法師」は存在は知っていたが、読んだのは、この長編の後のはずだ。

よく文庫本とかの巻末に、この作品には現代の観点から見ると、不穏当な表現がしてあるという意味の断り書きが載るようになって久しいが、この『一寸法師』は確かにそれが該当するような作品である。題名からして「一寸法師」というのは童話の指に足りないファンタジックな小人のことではなく、リアルな一寸法師が、ある金持ち一家の殺人事件に絡んで暗躍する。見かけはハンディがあるが、実はいい人、なんかでなく、自らのハンディのために世を憎んで、この一家にかかわる以外にも、後半で出てくるが、浅草を根城に子分たちを使って、世の中を騒乱する悪事を働いているのである。そういう不穏当な設定ながら、3度も、それぞれ一寸法師役の人を使って映画化されているのである。そういう世の中だったのである。

一寸法師の大悪人は登場すれども、後の通俗長編に較べ、地味で、一方で、新聞連載という制限の中で、乱歩は謎解きのきちんとある探偵小説をせいいっぱい描いている。展開が遅く、一つ一つの章が長いのも読みにくい理由の一つだろう。物語は当時の東京随一の娯楽街、浅草で遊んだ夜、片腕を運ぶ不気味な一寸法師を目撃した青年、小林紋三を中心に描かれる。彼の知り合いの美しい夫人の家庭に事件が起こり、小林の知り合いである明智探偵が出馬する。明智は当時、「心理試験」で描かれているように、書生時代のイメージを一新、上海帰りの名探偵となっている(『蜘蛛男』ではさらなる海外帰りで変身)。大震災前の?安来節のショーが人気の見世物であった浅草というのも、なかなかイメージしにくいものがあるが、浅草は乱歩が随筆でも書いている思い出深い街だ。

今回読んで感じたのは、この一夜が明けた遅い朝、小林があれは何だったんだというように昼の光の中で思うところが、なぜかしら漱石のミステリー的なところのある『彼岸過ぎまで』(かなり以前に読んで内容も忘れているけど)をぼんやりと連想させた。それから、事件が進展して、何者かに呼び出された夫人の後を小間使いの雪が追い、同時に夫人のことが気になってたまらない小林も尾行しているというところが面白かった。後は、面白くてどんどん読み進むというようなものではないが、探偵小説としては、最後に明智がみんなを集めて真相を語るところまで無難にまとめてある。

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