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乱歩再読メモ『黒蜥蜴』

中島河太郎解題によれば、三島由紀夫の脚本が発表されたのは “婦人公論” 昭和36年12月号、翌 3月にサンケイホールで上演、水谷八重子が黒蜥蜴、明智探偵は芥川比呂志。大映が井上梅次監督で京マチ子、43年には深作欣二監督が丸山明宏で映画化。

私が幼い頃、日曜日の正午頃に民放でシリアスな舞台中継を放映する番組があって、「黒蜥蜴」の舞台が取り上げられたことがあった。私はもちろん、そういう舞台中継などふだんは面白くもなく、祖母の横で見るともなく、コタツに寝転がっているのだが、この回なんだか面白そうなので、ちょっと注意していた。大人がいなくて一人で見ていたようにも思う。鉄腕アトムや鉄人28号のアニメで、警察と一緒に刑事が活躍するということは知っていたが、探偵というのがまだ何をする人かよく分からなかった。ジュニア向けのシャーロック・ホームズを読む以前、「少年探偵団」を今風にアレンジしたテレビアニメ「わんぱく探偵団」(りんたろう監督だと最近知った)放映のまだ前である。小学1,2年の頃だと思う。場面は黒蜥蜴の船上、長椅子の場面である。椅子の中の明智に驚く黒蜥蜴。ところが部下に命令して椅子がしばりあげられたまま、海中に捨てられる。絶体絶命。この舞台中継、前編と後編に分けて放映されたようなのだが、ここまでが前編のようでもあったし、ストーリーの配分から見ると、それはおかしいようでもある。記憶があいまいだ。とにかく、その後、船の中に怪しい老人がいて、その正体が黒蜥蜴の前で明かされる場面は覚えている。この舞台が三島由紀夫の脚本にもとづいたものなのかどうか、ヒロインが誰だったのかなど何も分からない。

「黒蜥蜴」はその後、12チャンネルの「明智小五郎」でも見た。「ダイヤモンドを食う女」という題名だった。このシリーズの中では、あまり面白くなかった。NHKの夏木陽介主演ドラマ「明智探偵事務所」では第1話、蝋人形館の捕り物で、佐藤蛾次郎がターザンの扮装で、何かにぶらさがって「アーアアー」とかやる。このドラマも印象に残らなかった。ニッポン放送の連続ドラマではやったかどうか思い出せない。天地茂は「非情のライセンス」に尽きる、明智探偵は似合わないと思っていたが、それでも一応見たりした。たぶん「黒蜥蜴」もやっただろう。

講談社1978年版全集では『黒蜥蜴』と『大暗室』が一つの巻にまとまっている。小説は今再読してみると、まとまりがあって良い。乱歩の通俗長編の中では秀作の部類だと思う。この時期は休筆の末、再開の「悪霊」が中絶の後、書きあぐねているような印象だが、本作を見ると生気を取り戻している、いろいろとやり方はあるのだなあという感じだ。本編の出だし、クリスマス・イヴ(ちゃんと乱歩も「イヴ」と書いている)に暗黒街(?、笑)で妖しく踊る黒蜥蜴、そして弟分の死体隠蔽工作と犯罪者ヒロインの側から描かれる出だしが印象的でスムーズ、そのまま明智探偵との前半戦に進み、明智と黒蜥蜴の攻防のルパン物っぽい面白さ、お話変わって謎の老人と娘の何だか良く分からないエピソード、黒蜥蜴の新戦略かと思ったら、また舞台が変わって後半、令嬢早苗誘拐作戦から通天閣での取り引き、印象的な追跡、そして船上へと。エピソードがまとまって、テンポ良く進む。そこに黒蜥蜴の明智への恋情を、うまい具合に入れていて、他の長編にない味わいとなっている。船上と黒蜥蜴アジトの場面では一方で、明智の策略により、黒蜥蜴一味が追い詰められてゆく様がたんねんに描かれていて、面白い。

明智への恋情も持つ黒蜥蜴だが、決して紳士(淑女)怪盗ではない、冒頭のエピソードのように殺人隠蔽工作など朝飯前、彼女の博物館には盗んだ数々の宝石とともに、美男美女の死体蝋人形コレクションが飾られている。そして誘拐された早苗は全裸にされ、牢屋に入れられる。その牢屋には全裸の美青年が待っていた……官能と耽美の世界……のはずなのだが、パノラマ国に半裸の美少年と美少女がいて、背中に羽はやして客人を導く、みたいな光景と同じく、どうしても笑えてしまうシチュエーションである。そういう、読者によってはナンセンスに入り込んでしまう感覚も含めて楽しい夢世界である。

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